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セミくんいよいよこんやですセミくんいよいよこんやです
(2004/07)
工藤 ノリコ

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セミの一生を温かい目で描いた傑作

幼虫として数年間を土の中で過ごし、外に出て成虫として活動するのは
わずか数週間。そんなセミの生態を知ると、土の中でいったい何しているのか?
外に出ないで飽きないのか? などと一度は想像するでしょう。

ただ、それは人間側の価値観であって、当人であるセミにしてみれば、
けっこう地中ライフを楽しんでいるかもしれません。
この絵本の冒頭シーンのようにね。色々なオモチャ・本などに
囲まれてベットに横たわるサナギのセミくんを見れば、明らかです。
ダイヤル式の電話やレコードから察するに、けっこう昔から地中で
生活していたのではないでしょうか。

ただ、長年暮らした部屋を後にするセミくんの「さよなら」の一言で、
絵本の空気はがらりと変わります。哀しみと緊張感が混じって胸が
ドキドキしました。

この絵本は幼い子どもにとっては、新たな世界へ向かう者への応援歌と
受け取れるでしょう。初めはね。 そしてセミの生態を知ってから
再読すると、今度は生きることの重みを感じ取ることになるでしょう。

絵本作家ならではの視点が見事に生きた作品です。
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