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おとうさんのちず

2009/07/29 Wed 13:39

おとうさんのちずおとうさんのちず
(2009/05)
ユリ シュルヴィッツ

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絵本作家シュルヴィッツが語る戦時のエピソード

読み返したときに気づいたのは、冒頭の「せんそう」という4文字だけが
他の文字より大きく、しかも色まで変えてあることだ。
そこには作者の強い意図が感じられる。この作品は第二次世界大戦で
ポーランドを追われた絵本作家:ユリ・シュルヴィッツの子ども時代の
エピソードがもとになっています。パンをまともに得ることさえ、
ままならない生活を強いられた彼の家族。ある日、彼の父親が市場から
帰ってきたときに手にしていたのが、食料ではなく一枚の世界地図でした!
もちろん家族の怒りは半端でありませんでしたが、そこには父の深い
意図があったのですね。一時のひもじさと引き換えに、シュルヴィッツは
大きなものを得るのです。

「せんそう」は何もかも奪い取ってしまう。しかし人には決して
失われることのない光があるのだと信じたくなりました。
当時の彼が便せんの裏に描き写したという巻末の地図の絵は、
今でもまぶしく輝いています。
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はなおとこ

2009/07/26 Sun 13:40

はなおとこはなおとこ
(2009/06)
ヴィヴィアン シュワルツ

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鼻男の話は他人事ではない

この作品に出会ったのは、2002年のオッフェンバッハで。
インパクトのある表紙に目が釘付けになり、すぐに本を開いたが、
ドイツ語は読めなかった。しかし原書のタイトル「THE ADVENTURES OF A NOSE」
から元は英語版であることを知り、すぐに読まねばとネットで取り寄せた。
今では日本語版(しかも穂村さんの訳)も登場し、それをここインドで
手にしているという感慨にしばしふけりました。という個人的な前置きはさておき・・・

はなおとこは「鼻男」 脚のはえた鼻なのである。
どこでどのように生まれたのかは謎ですが、それは当人もはっきりと
わかっていないようで、自分の居場所を探してあちこち旅をします。
どんな場所に行っても、そこが鼻男の存在によって(表紙のごとく)一変してしまう
ところが、この絵本ならではの妙技。最後は禅のごとき悟りの境地へ。
テーマと表現がみごとに一致した怪作です。

ちなみに鼻が主人公の絵本では「コワフの消えた鼻/牧野 良幸:作」もおすすめ。
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たのしいたてもの

2009/07/23 Thu 13:41

たのしいたてものたのしいたてもの
(2009/01)
青山 邦彦

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建築絵本の第一人者による楽しい作品

ボクのアパートのとなりに、建設中のショッピングモールがあるのですが、
これがなかなか完成しそうもない。建物のそばにデカデカと掲示されていた
完成予想図には、2007年オープンと書かれていました。ところが
そのうち数字の7の部分が手書きで8に修正され、今ではその看板すら
取り払われてしまいました・・・というわけで

「どうして ぼくだけ ちゃんとした たてものになれないのだろう」
本書に登場する、建設途中のマンションの嘆きに思わず共感してしまいました!

しかし、たまたまその嘆きを聞いた建築家が、とあるメッセージの看板を
作ったことで、みごとに解決しました。見所は、何にも無かったコンクリートの
空間が、そこに住みたい人達によって、様々な部屋に変わっていくプロセス。

個性的な住人たちが協力し合うことで、世界にひとつとないユニークな
マンションが誕生します。

「この建築家がこっちにも来てくれないだろうか…」というのはボクの嘆き。
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きょうはさいこうのたんじょうび―メルローズとクロック (児童図書館・絵本の部屋)きょうはさいこうのたんじょうび―メルローズとクロック (児童図書館・絵本の部屋)
(2009/06)
エマ・チチェスター クラーク

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祝い合う相手がいることに意味がある

犬のメルローズは仲良しのワニのクロックの誕生日を祝おうと
海辺の別荘へドライブします。メルローズは新鮮な魚を食べてもらおうと、
クロックを別荘に残し、小舟で釣りに出かけたはいいですが、嵐が近づいて・・・

二人の友情を描いたシリーズの4作目として素直に楽しめばよい作品です。
ただボク的にはテーマと関係のないところに目がいってしまいました。
例えば、海辺に別荘があっていいなあとか。メルローズはけっこう
お金持ちなんだろうなあ?なんて。子どもの財力では無理でしょう。
彼らは、ある程度の大人だとすると、同性の友人の誕生日をこのように
祝うのは(男性としては)ちょっと気恥ずかしいなあ、なんて考えたりも。
原作のイギリスではどうなんでしょう?

ボクが住んでいるインドでは誕生日になると、本人自らお菓子を配ります。
お祝い事や何かいい事(車を買ったり)があっても、そうしてますね。
普通は逆じゃないかと思うのですが、所変われば考え方も変わるもの。
喜びを分かち合うことに変わりありません。
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ひろと チロの なつまつり

2009/07/13 Mon 13:44

ひろと チロの なつまつり (講談社の創作絵本)ひろと チロの なつまつり (講談社の創作絵本)
(2009/06/20)
成田 雅子 (絵・作)

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少年時代の夏は思い出の宝庫

ここ数年、死を扱った絵本が増えているように思います。
家族との別れ、ペットとの別れ、友人との別れ、様々な別れ。

この作品では、飼い犬のチロを失った男の子の心情が
二人の好きな夏祭りの思い出と共に描かれています。
いつまでもチロといっしょでいたいがために、一所懸命に
太鼓をたたき続ける男の子の姿が印象的でした。

犬は家族といってもいいほど我々の生活に密着した存在で
ありながら、人よりもはるかに寿命が短いので辛い別れを経験した
かたも多いでしょう。(ボクもそうです)

本作にどれだけ共感できるかは、個人的な体験によるところが
大きいでしょうが、心象風景を活かしたファンタジックな描写は
作者ならでは味わいだと思います。
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絵本版 ガマの油

2009/07/12 Sun 18:31

絵本版 ガマの油絵本版 ガマの油
(2009/06/03)
角 一彦、

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心と心のつながりは誰にも断てない

表紙に描かれたガマおやじの絵が気になり手に取りました。
実をいうとボクは映画のほうをまだ観てないのですが、
これはこれで独立した作品として味わえるものになっています。

息子を失い悲しみにくれるガマガエルの父は、位牌とともに
旅に出かけます。道中で出会うのは今は亡き知人たち。
彼らは悲しみを軽くする方法を色々と教えてくれるのですが、
そのためには、あるものが失われる事を承知しなければならない。
例えば、息子との記憶とかね…

この作品はカマガエルの父が最愛の者を失ったという事実を
受け入れていく過程を通し、死とは何かが描かれています。

映画では人間が演じていた事を、動物に置き換えたことで
表現がシンプルな力をもち、よりテーマが伝わりやすくなった
のではないでしょうか。逆に映画では、それぞれの見せ場が
どのように描かれたのか想像が膨らんできました。

読み手の人生経験に応じた受け止めかたのできる
奥行きある作品です。
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つみきくん

2009/07/05 Sun 18:32

つみきくん (絵本のおもちゃばこ)つみきくん (絵本のおもちゃばこ)
(2009/05)
いしかわ こうじ

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組合せによって無限にひろがる可能性

つみきくんはカラフルな○や■や凹や▲でできたキャラクター。
積み木なので組合せしだいで、何にでも変身できちゃうんですね。
積み木工場を出発し、自分で町に向かって歩いていきます。
途中に海があったり、子猫に助けを求められたりしますが、
つみきくんならではの変形で解決するところは見せ場のひとつ。

少年のころに夢中になった変身合体ロボット的なおもしろさの
原点を、思い起こさせてくれました。

話としては(箱に並んだ積み木のごとく)きれいに収まってますが、
あえて欲を言えば、もっと変身シーンを見たかったです。
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トン・ウーとはち

2009/07/03 Fri 18:33

トン・ウーとはち (講談社の創作絵本)トン・ウーとはち (講談社の創作絵本)
(2009/05/15)
小風 さち

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平成生まれにして古典の風格をもった民話絵本

日本人コンビによる平成生まれの創作絵本なのですが、
作者名を隠せば、韓国に昔から伝わる民話絵本の翻訳版 といっても
誰もが信じてしまうくらい、ある意味で、完成度の高い作品です。

いたずら好きの小坊主トン・ウーと、彼に巣を棒でつつかれ
たたき起されたハチとの掛け合いが、一番の見どころ。
いたずらした者は誰かを尋ねるハチへ、犯人を教えるかわりに
芸をすることを要求するトン・ウー。お経を読んだり座禅を組んだり
してみせる強面のハチの姿がなんとも愛らしい。ばけもの魚や、きれいな鳥だの
その度、適当な答えを教えられ、当人に確認しに行くと、ぬれぎぬであること
が判明する。といった繰り返しのパターンが、次はどうなる?という期待を
次第に高めてくれます。と同時にバレたらどうなる?という不安もネ…

やっぱりというか、思わぬところから露呈してしまうウソ。
でも、何故か良かったなあと安心できる結末です。
これぞ民話という満足感を久々に味わえました。
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