ジャーニー 国境をこえて:フランチェスカ・サンナ:きじとら出版
2018/11/25 Sun 08:10
絵が上品すぎる
グラフィカルで美しいイラストに眼を惹かれてしまう絵本ですが、
テーマのシリアスさがどれだけ伝わるかが気になりました。
架空の冒険物語がゲーム感覚で描かれているようにも見えるので。
突然の戦争、父の死、町との別れ、国境越え、危険な航海などなど
現実にあった命がけのシーンは、もっと生々しいものでは・・・
(どちらかと言うと、この絵のタッチで描かれた童話を見てみたい)
三人家族の長い旅はさらに続く、という終わり方をしているのは、
どこかに住処を得た後も移民や難民としての困難が待ち受けている
ことを暗に示唆しているとも受け止められます。
移民の苦労を描いた絵本としては有名なのが
「アライバル:ショーン・タン」
移住先の住人が虫という異色な表現の
「エロイーサと虫たち:ハイロ ブイトラゴ/ラファエル ジョクテング」
などはおすすめです。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
昨日はSFマガジンの古本(1968年)にどっぷりつかり、
過去への時間旅行を楽しみました。
こすずめとゆき:黒井 健/深山さくら:佼成出版社
2018/11/24 Sat 06:51
初めての雪と再会する
そういえば初めて雪に出会ったときの記憶って定かでは
ないなあ。降り積もると世界がガラッとかわるので、
何らかのインパクトを受けているはずなんだけど。
新たに雪が降る度に記憶が上書きされてしまったからだろうか・・・
(もちろん雪のおかげで印象に残っている日は色々とありますが)
絵本の中で出会った雪として印象に残っている作品は、
風邪で寝込んだ女の子の心情と降り積もる雪がリンクした
『おかあさんおかあさんおかあさん…/大島妙子』
外出できないほどの大雪を迎えた母と子を描いた
『ゆきがやんだら/酒井 駒子』など。
雪との初めての出会いを描いた絵本もたくさんありますが、
その中でも特別な存在になりそうなのが本作です。
黒井さんの描いた場面のひとつひとつに魅入ってしまうので。
画面の中から雪のもたらす空気感までもが伝わってきます!
それと雪を初めて迎えた子雀の心象も。直接に見えないもの
まで画面にしんしんと塗り込められているのですね。
読後は自分が初めて雪とであったときの記憶に
ふと触れたような気がしました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
今日という日を旅するような気持ちで一日を
過ごそうと思う。
おなじ月をみて:ジミー リャオ:ブロンズ新社
2018/11/18 Sun 07:57
本を開く前に覚悟がいります
月夜の森を男の子とライオンが仲良く散歩するという
ファンタジックな表紙から想像していた内容とは
違った場所へと連れて行かれる展開に衝撃を受けました。
窓の外を眺めて何かを待つ男の子。最初にやってきたのは
怪我をしたライオンというのが意外。ライオンは家に
入ってきて、男の子が手当をしてあげるのです。
実際にライオンが家の前に登場したら、もっと驚くと
思うのですが、男の子にとっては違和感なく受け入れる
世界なのですね。かといってここは病院でもなさそうだし。
他にも次々に動物たちを迎え入れるのですが、共通している
のはみんなどこかに傷を負っていること。みんなに手当を
してあげる男の子の健気さに癒やされていく気持ちに
なっていた矢先、最後にやってきた者がショックでした。
急に現実の世界が突きつけられたので。
月夜に飛ぶものを描いた2枚の画面が前後で対に
なっている・・・無垢な動物たちと人の愚かさと家族愛とが
入り混じった複雑な読後感です。はたして子どもはどのように
受け止めるのか気になります。
本作に一番近い読後感の作品をあげるとすれば
「ぼくがラーメンたべてるとき:長谷川 義史」
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
11月も風のように過ぎ去りそう。
「明日は無限にあるわけではない」という言葉が
歳を経る度に身に沁みてくる。
アルフィーとせかいのむこうがわ:チャールズ キーピング:ロクリン社
2018/11/17 Sat 07:51
憧れへの小さな船出
船に乗れば憧れている「世界の向こう側」行けると信じた男の子の
冒険を描いた絵本。テムズ川の夕霧やまばゆい街の光などが幻惑的
に描かれているのが印象深いです。舞台となっている川岸の街は
大人にとって日常の世界なのでしょうが、男の子の目からは、
まるで別世界といった感覚がよく伝わってきました。
何と言ってもキーピングの絵がいい。極彩色を使い、インクが
弾いたようなタッチで描かれた人物などは、見方によっては
血まみれに見える危険も含みながらも、格調あるミステリアス
な世界を生み出しています。これは原画がみてみたいです。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
ときどき自分がどこかでモニタリングされているような
気になることがある・・・興味を持っていた事柄が
しばらくして映画化されたり雑誌で特集されたりとかするので。
あるいは巧みな誘導にノセられているのか?
ゴリラのくつや:谷口 智則:あかね書房
2018/11/16 Fri 05:33
とうちゃんスゴいぞ
もっと早く走りたい、冷えから守りたい、体型を良く見せたい、
などなど、様々なお客のリクエストに応じて靴を作る
ゴリラの靴屋さんの仕事ぶりが見事です。
そんな父なら、きっと作ってくれると信じて、ゴリラの息子が
難題をつきつけてくる?! 実に子どもらしい思いつきなんですが、
普通に考えたらそんな靴はできないのでは・・・というこちらの
心配をよそに、サクサクと作ってしまうんですね。
なるほど、そうきたか! 父の力量に息子も大満足。
最近よんだ絵本でも、靴屋の父と息子がからむ作品がありました。
「うでのいいくつや:澤野 秋文/くすのき しげのり」
こちらもおすすめです。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
ゴリラは手で物をつかめるし、二足立ちもでき、
強面なところもあって、靴職人はハマり役ですね。
せん:スージー・リー;岩波書店
2018/11/11 Sun 17:55
白紙がアイスリンクに
白紙の上にひかれていく鉛筆の描線を、氷上を舞うスケーターの
軌跡にみたてた文字のない絵本。画面を縦横無尽に流れる線が
心地よい。時には軽やかに、時には力強く、曲線から螺旋へ、
タメをつくってジャンプしたその先には・・・
たしかに夢中になって絵を描いているときの感覚は、
ダンスに近いものがあるかもしれない。手の動きと視覚が
完全に連動し、鉛筆を持っていることを忘れてしまう。
気がつくと目の前には、求めていた光景が立ち上がっている。
なんて画家の気持ちが体験ができる作品でした。
自分が絵を描くときは何本のもの線を描いては消し、消しては描く
といった泥臭い作業を納得のいくまで繰り返すことが多いです(^_^;)
が、転ぶことも含めて描くことの楽しさを伝えてくれる作者の
眼差しに温かみを感じました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
心地よく文章を打ち込んでいる時は、ピアノを演奏して
いるかのような気分にもなりますよね。エンターキーを
叩くときに、ワザとタメを作ったりとか。
すいかのプール:アンニョン・タル:岩波書店
2018/11/09 Fri 07:50
スイカを全身で味わえる
真っ二つに割れた巨大なスイカが登場! 赤い果肉の中に浸ったり、
ピチャピチャ歩いたり、固めて何かを作ってみたりと、体全体で
スイカを味わいつくせる作品です。確かに巨大なスイカが
あったらこのような楽しみ方もできるでしょうね。
花見に行くような感覚でスイカのプールへと向かう家族や子供たち。
当たり前のごとく巨大なスイカが存在しているという世界観で、
空想と現実の垣根を、自然にスルーさせてしまう展開も見事です。
食べ物としてではなくプールという扱いも徹底していて、
スイカを実際に口にするシーンはいっさい描かれていません。
それでも読後はスイカを味わった気分で満たされちゃいました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
これからは鍋物浴の季節ですね〜 お勧めは、
「おでんおんせんにいく:中川ひろたか/長谷川 義史」
「おもちのおふろ:苅田 澄子/植垣 歩子」
ちかてつライオンせん:サトウ マサノリ:パイインターナショナル
2018/11/04 Sun 06:11
これぞ獅子奮迅の働きぶり
なんといっても駅長でありながら地下鉄の運転もこなす
ライオンさんの仕事ぶりがみごと。草原や氷山や池など
さまざまな駅をまわって、動物たちを乗せるのですが、
なかなか予定どおりにいかないようで・・・
子供の視点では単純に楽しめるし、さらに大人の視点でも
楽しめる味わい深さがあります。いつも通りの日常は
目に見えないところで頑張っている誰かに支えられている。
実は我々自身がライオン側かもしれないし乗客側かもしれない。
(逆向きの地下鉄も運行されていたりして。なんて
ちょっとブラックな想像もしてしまいました)
働くライオンの絵本として併せて読むなら
「ライオンとうさん:しらき のぶあき」 もお勧め。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
レビューを書くのって、ひとり絵本セラピーだな。
めぐる森の物語:いまい あやの:ビーエル出版
2018/11/03 Sat 07:06
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