ひとりぼっちの ガブ:きむら ゆういち/あべ 弘士:講談社
2019/05/26 Sun 07:07
本編を再読したくなります
「あらしのよる」の前日譚となる作品で、ガブの幼い頃が描かれています。
父と母、同世代のオオカミたちとの関係を通し、ガブがガブとして
歩み始める先が照らし出されていき、最後は涙ぐんでしまいました。
作中の出来事のひとつひとつが、その後に続くヤギのメイとの出会いで
大きな意味を持ってきます。本編の方は二匹の会話を中心に展開されますが、
この本の後に再読すれば、ひとつひとつの言葉や行為の裏側に秘められた
ガブの心中が見えてくるので、味わいもより深まることでしょう。
対になる作品「メイは なんにも こわくない」もよんでみたくなりました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
昨日はコーヒー&バーAAさんで開催された試飲会へ行ってきました。
なんと、ガブとメイをイメージしたコーヒーとハーブティーなのです。
まろやかな苦味の「オオカミのコーヒー」、草原のように爽やかな
「ヤギさんのハーブティー」共にアイスでいただき美味しかったです。
熱い日差しの中、心地よい物語が喉をかけ抜けていきました。
きつねのテスト:おざわ ただし/片山 健:ビリケン出版
2019/05/25 Sat 06:51
試されているのは好奇心の偏差値?
「きつねのテスト」なんて看板を見かけたら、気になって気になって
しょうがない、ボクもそこに入ってみたくなるでしょう。
テストというのは、二者択一問題で正解すると不思議な事が起こるのです。
姿が変わったり、物が動き出したり。下校中の女の子は寄り道して
キツネからのテストを受けるはめになるのですが・・・
このテストそのものは謎だらけです。テストといっても
くじ引きのようなものです。いったい何を試しているのか?
度胸? 運? キツネは自分の発明を見せたかっただけなのでは。
ところで、絵本に登場するキツネって魅力的です。ちょっと危険で
ズル賢しこく怪しげで、ちょうどオオカミとタヌキとネコの特徴が
うまくミックスされているように思えます。
片山さんの野太い筆致の絵にも引き込まれます。キツネのすっとぼけた
感じや、女の子のふてぶてしい表情がいい味わいになってます。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
この絵本は「よりみち」というテーマで開催された朗読会にて
紹介され、その世界観に引き込まれてしまいました。
このキツネとは仲良くなれそうな気がする。
ダム・キーパー:トンコハウス:KADOKAWA
2019/05/19 Sun 06:24
小さくて大きな世界
ダム・キーパーという仕事について、読後に戸惑って
しまった。ダムがせき止めているのは、水ではなく暗闇だ。
そして街が暗闇に覆われてしまうのを押し返すのは一台の風車のみ。
さらに風車を動かしているのは、ひとりぼっちの子ブタで、
まだ小学生のようなのです。
壮大なスケールの舞台設定と役責に対して、子ブタのなんと
心もとないことか。使徒の襲来を防ぐ某SFアニメを思い出して
しまったが、そこで展開されているのは友情物語。
これらは全てをひっくるめて、一つの心象世界なのだろう。
そう考えるとダムは子ブタの中にある心の壁なのかもしれない。
子ブタはネガティブな世界に飲み込まれないように、
風車をまわして必死で抵抗しているのだな。
画面はひたすら美しく、闇と光のコントラストが印象的です。
元になっているアニメのほうも観てみたくなりました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
5月6月と色々準備することが増えてきた。
そしてあっという間に夏休み。
もりのちいさなしたてやさん:こみね ゆら:風濤社
2019/05/18 Sat 05:58
服をオーダーしたくなる
小人の三人姉妹が営む、森の小さな仕立て屋さん。お客は動物や
小鳥たちで、クモの糸や綿毛など自然の恵みを集めて作る服はとても
着心地が良さそうです。男の子側のボクにはメルヘンチックな
少女絵本の印象を強く受けますが、装う物を通して自然界と
つながる心地よさが伝わってきました。
特にお姫様の誕生パーティの為に仕立てた星空のドレスが美しい。
絵を見ながら、実物の手触りや色や輝きを想像して、ついつい
夢見心地に。さらにこんな服があったら、あんな服はどうだろう、
と色々空想してしまいました。
もしも自然を身にまとえるとしたら? フカフカの土や、
花の香りや、夕日の輝きや、綿雲や、雪化粧などなど、
きっと森の仕立て屋さんなら作ってくれるはず。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
でも兵隊さんが迷彩服をオーダーしたら断られるな。
ともだちになろう―シリルとパット:エミリー グラヴェット:フレーベル館
2019/05/12 Sun 06:28
人間にも嫌われる〇〇〇と友達に
リスのシリルが出会って仲良くなったパッド。
自分と見た目がそっくりなので、同じリスだと思っていたら・・・
パッドの中に、自分と同じところを見出しているシリルに対して
違うところを指摘し、二匹の仲を否定するハトやアヒルたちという
展開が、人間社会の縮図のようにも思えます。
そしてパッドの正体を知ってしまったシリル、果たしてどうするのか?
絵本では、ヤギとオオカミまでもが友達になることもありますし、
ネットでは猫と小鳥が仲良くしている動画があったりなど、
自然界ではありえないことも実際に起こってます。なのでリスと〇〇〇程度
の違いが、なんで問題になるの、と思う子どももいるのでは。
作品の世界観として、仲良くなれるのは同じ種族だけという前提ありき、
といったところが気になりました。
エミリー・グラヴェットといえば、トリッキーな展開の作品が
多いので、最後に何かやるのではと変な期待をしてしまいましたが、
本作はオーソドックスで、その点、安心してよめます。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
金曜に早上がりで職場から東京へフライトし、昨晩に熊本へ
もどる。機内でボーっとしていたせいもあり、どこでもドアを
使ったか、テレポーテーションしたような気分。
むれ:ひろた あきら:KADOKAWA
2019/05/11 Sat 06:53
たわ群れる
ページいっぱいに登場する様々な群れ。よく見ると
ひとつだけ違うものがまじっています。単純な絵探し絵本に
みえますが、思わずクスッとなってしまうのは、そのひとつが
ボケ役的な存在になっているからでしょうか。
添えられた言葉にも注目、ひとつだけ間違いがありますとか
仲間はずれがいますなどと言うのではなく、1匹だけ毛が無いとか、
1羽だけ走っているとか、その者の姿や行為をそのまま受け入れて
いるところに、さりげなく優しさを感じます。
その者自身はどう思っているのかな? みんなと違うことで、
時には辛い思いをしているのかもしれない。そんなことを
思ったのは雨のページにて。蟻のページに至っては、
明快なメッセージがあり、感動ものです。
そして、探していたのは、自分の中に隠れていた気持ち
だったのだな、と気づくことでしょう。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
逆に、みんなが違っている中で、ふたりだけ
同じです、なんてこともいいなって思いました。
ちいさな おおきな き:夢枕 獏/山村 浩二:小学館
2019/05/05 Sun 06:43
世界を支えているものが見えてくる
大きな樹がどれぐらい大きいかというと、象が住めるだけでなく、
頂上には雪がつもり、それが溶けて川や湖までできて、魚までも
住みつき、さらには人間が登場して街を作ってしまうほど大きいのだ!
このユニークな樹は、言うまでもなく地球の比喩なんですが、
人間が登場してから、環境破壊や戦争によって枯れ果てて
しまうという展開が寓話的でわかりやすい。
元々は蟻が見守るほど小さな芽でした。そんな日常的視点を
樹の成長と共に地球的視点にまで拡げ、長い長い歴史的時間を
一本の樹の寿命にまで圧縮してしまうことで、我々が生きている
「今」という点が見えてくる構成になってますね。
手のひらに乗る一冊の本の重みは、人として、あるいは人類として
抱えている課題と可能性でもあり、我々一人一人の持っている力を
実感させるものでもあります。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
明日から仕事が始まるので、ちょっと神妙な気持ちに。
今日はGW最終日というより、いわゆる日曜日なのです。
そこつ長屋:野村たかあき/柳家小三治:教育画劇
2019/05/04 Sat 07:54
おまえが死んでるよ って?
元になった古典落語の「粗忽長屋」を知らなかったので、
最後はどうなるんだろう?と、絵本作品としても楽しめました。
粗忽=そそっかしい、あわてものという意味だってことも
初めて知りましたが、話そのものは、江戸を舞台にした落語で
なくても、普通にコントとして成立ちますね。
なんといっても八っつぁんの言動が面白い。行き倒れになった者を
同じ長屋に住む熊さんだと思い込み、間違いないかどうかを
当人を連れてきて確認させようとするですから。
熊さんも熊さんで、そりゃたいへんだと、のこのこ
やってくるわけで・・・
言葉は文法的には成立しているけど、論理としては矛盾してて、
その思い込みが最後まで徹底されているところが見事。
現場を仕切る世話人の突っ込みもいい感じです。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
この手のお笑いが江戸時代からあるなんて、
落語の世界も奥が深いなあ。
フランクリンとルナ、月へいく:ケイティ ハーネット/ジェン キャンベル:BL出版
2019/05/03 Fri 07:00
読書の楽しみが宇宙へ羽ばたく
前作「フランクリンの空とぶ本やさん」で、女の子のルナと
ドラゴンのフランクリンとで作った本屋さんの話の続きを
期待していたら、ちょっと違いましたが、これはこれで
冒険物語として楽しめました。ルナがフランクリンの生まれ
故郷を探そうと、共に世界中を飛び回るのですから。
ドラゴンの故郷を目指すだけあって、旅先で雪男や吸血鬼と
出会ったりなど、ちょっとしたミステリーツアーになってます。
さらには地球を飛び出して宇宙へ。訪れた月のクレーターには
本が壁のように並んでいるシーンがあったりして、いかにも
本好きのドラゴンの故郷らしい。旅路でさりげなく活躍したのは
同行したカメで、その名がニール・アームストロング
だったりと、今回はSF冒険ファンタジーな味わいでした。
次回作ではフランクリンの仲間が地球へ遊びに来るのかな?
イラストの筆塗り跡も心地よく、大きめの画面を開いて、
のびのびと空想を羽ばたかさせられる絵本です。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
GW中に読んだ本で印象に残っているのは「幼年期の終わり」。
もはやSFの定番ですが、中学生のときに作品のことを知って、
昨年の読書会で紹介されて気になり、やっと読了。
長年の思いを果たすことができた。人類が月に到達する前に
こんな未来像を描いていたなんて、クラーク恐るべし。
ABC (世界一美しいファーストブック):ウィリアム・モリス/リズ・キャッチポール:東京書店
2019/05/02 Thu 06:43
贅沢な様式美の幼児絵本
幼児向けのABCブックの形式をとってますが、大人が手にしても
充分に見応えのある絵本です。まずキャンパス地風の表紙の手触り
からして風格があり、ついつい撫で続けてしまいました。
金の箔押しに加え、背景の柄はウィリアム・モリス! そう言われて
驚く子供はいないでしょうが、たとえその名は知らなくても、
古き良き英国の格調高さは感じ取るのではないでしょうか。
動植物をモチーフにした装飾柄は、各アルファベットにちなんだ
洒落たイラストとの関連性もあり、ついつい見入ってしまいます。
知性と感性が刺激されるだけでなく、本への愛着も高まる作品なので、
幼児期から大人、さらに孫へと代々受け継いでいきたくなりますよ。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
令和最初のレビュー。一年に元旦を2回迎えた気分で。
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