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ミステリーファンにもお勧め

作者の藤田新策さんは、スティーブン・キングを始め、
乱歩の新装版少年探偵シリーズなどミステリー関係の装画で
有名ですね。深層心理にまで踏み込んだ重層的な描写が
特徴で、その魅力がこの絵本でも発揮されてます。

画面の下半分以上を占めるのが水辺に映し出された風景で、
兄妹の散歩する様子を横スクロールしながら追う構図。
水辺が風や落ち葉でゆらいだり、画面の上で途切れている
風景が反転描写されたりと、謎めいた演出にドキドキ。
現実と虚構、意識と無意識、を行ったり来たりする
トワイライトゾーン的展開で、ページをめくるにつれて、
散歩に誘われた妹と同様に、読者の不安も高まってきます。
ラストに至り、全ての伏線が絵本的に回収されたのは見事。
兄は全ての真実を知ってたわけか・・・

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
先週のEテレ「てれび絵本」でも放映されてましたね。
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なんだろう?が誘う哲学の迷宮

ヨシタケさんらしい絵本ではありますが、ちょっと盛込み過ぎ。
○○って何だろう? の○○が次々に登場してくるので、
読み進めていくうちに、思考の流れが渋滞してしまいました。
ひとつひとつのトピックをもっと丁寧に掘り下げて欲しいと
思いましたが、道徳の教科書に掲載されたものを再編したとの
ことで納得。小1から中3まで、成長段階に応じて関心の高い
テーマが取上げられているのですね。

とは言っても絵本としても楽しませるなら、他の作品の
ように、もっと絵的に飛躍した表現があると、目でも
考えることができて良かったのですが。

その意味で、お勧めの哲学絵本シリーズは
「哲学してみる:オスカー・ブルニフィエ/ジャック・デプレ」
CGのキュートなキャラと洒落たビジュアルが特徴で、
視覚的にも思索をうながす演出がみごとです。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
遠くの景色を見ながらボーっとする時間も好きです。
そんな空や海のような絵本ってないだろうか。
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絵日記のごとくパン食する

ページ毎に登場するお爺ちゃんの食パンが美味しそうに
描かれてます。ほぼ原寸大なので、画面に手をのばして
食べたくなる程です。孫息子がちょくちょく訪れて、
分前をいただくのも納得。まるでパンに餌付けされて
いるかのよう・・・否々そうじゃありません。

小さなテーブルを囲んだ定点観測的な展開の中で、
だんだん成長していく孫と、相も変わらず自分でトーストを
作り続けるお爺ちゃん。直接に描かれていない事まで、
色々と伝わってくる味わいの深さもありますよ。

パンの作り方を見るに、お爺ちゃんは只者ではないですね。
若い頃は名の知れたパン職人で海外での修行経験があるとか、
勝手に想像を上塗りしてしまいました。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
食パンはお爺ちゃんのキャンバスだな。
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カレーが懐かしくなる

2020年の今は自分の子どもの頃から見れば、未来世界だ。
しかし空想していた通りのものかと言えばそうではない。
科学技術の進歩で、過去には出来なかった事が可能になったり、
存在しなかった物が登場したりしていることは認める。
万能通信機とか、ロボットとか、流線的建造物とか。
でも何かが足りないんだよなぁ。

それは重力からの開放かもしれない。例えば車が気軽に空を
飛べるようになるだけでも、街の景観は、かなり未来的に
なるのではないだろうか。見上げた時に何が目に入るかは、
我々の意識に大きく影響しているはずなので。
人は夢を思い描く時に空を見上げるものでしょ。

その意味で、エアロな乗り物や小物、浮遊建造物などが
多数登場する「ミライノイチニチ」は、イメージとして
抱く未来感を満足させてくれました。小学生の男の子の
一日を通して未来の生活感まで伝わってきたので。

青と緑をメインにしたトーンも心地よく、
タイムマシンの代わりに時々読みたい絵本です。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
空に見える風景は太古も今もほぼ同じ。見下ろした
風景は劇的に違うんですけどね。
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遠近マジック

観光地で、尖った屋根をつまんでみたり、斜塔を押してみたり。
遠近感による錯覚を利用すれば不思議な記念写真が取れますよね。
まあ、そういう内容がほのぼのと描かれた絵本で、さらりと
読み終えたものの、気になるところがいくつかありました。

まず、離れた者同士が普通に会話してるけど、距離的には
大きな声を出さないと不自然では。
イヌの、あの場面での反応はいかがなものでしょう。
ネズミの危機は見て見ぬ振りかい?
それとタロウくん。ロボットへの絡み方が冷めてないか?
だってロボットだぜ、もっと何かあるだろう。
いや、その前に、巨鳥に遭遇した後の切り替えが早すぎ。
などなど、物語を追いかけて絵本の世界に近づこうと
したとたんに、フッと遠ざかってしまうので、全てが
他人事に感じてしまったのが残念でした。

ところで機内の女の子は何を考えているのだろうか。
少なくとも「空から見るとロボットが小さくみえるわね」
ではないと思う。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
お台場のガンダムを、ゆりかもめから見つけたときは、
離れているから小さく見えるなぁ、なんて思わなかったぞ。
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初ネズミ

「ヒワとゾウガメ」では、おしゃべりな小鳥と無言で長寿のカメ、
「星につたえて」では、時間感覚の異なる、ほうき星とクラゲ。
二作とも安東さんの著した異種な者同士の涙をさそう物語でした。

ネズミと金魚が出会う本作も同様に胸が熱くなる物語です。
我々とも身近な親しみやすい動物で、しかも冬の到来による
生態系の変化が自然に活かされていて共感しやすかったです。

間に障害が立ちはだかったとき、どんな行動をするかで、
お互いを想う強さが明らかになってくるもの。新年早々に
そんな物語に出会えた喜びを噛み締めております。
しかも今年の干支が登場しているので縁起もいいぞ。

吉田さんの描く金魚と雪景色の紅白の対比も見事。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
明日世界が終わるとしたら何をする? という極端な質問より、
明日連休が終わるとしたら何をする? という問いのほうが
身近で考えやすい。
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今年の初雪絵本

初めて雪と出会った感激を、リスの兄妹を通して優しく
描いた絵本です。雪との出会い方も色々あるでしょうけど、
最もドラマチックなのは、本作のように、一夜明けた後で
外が一面の白い景色になっているシーンでしょう。
兄の後について外に出た妹リス。新たな遊び場を見つけて
はしゃぐ姿が微笑ましいです。雪の形に気づいて二人で
空想を共有するシーンがいいですね。

無地の白からは、間接的に太陽の日差しが感じられ、
雪が描かれていても全体的に温かいトーンになっているのも
この作品の特徴のひとつ。画面の隅に登場する小鳥たちの
仕草も可愛らしいです。

雪との出会いを描いた最近の絵本でおすすめは、
「こすずめとゆき:黒井 健/深山さくら」
こちらはヒヤッとした空気感が伝わってきます。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
雪との出会いを描いた絵本でどれが好きですか?
という質問の心理テストor絵本占いが作れるかも。
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昔も今も不動のシンボル

空を見上がると、お天道様やお月様やお星様が居て、
離れている者同士でも同じものを見て心がつながれる。
そんな存在として忘れちゃならないのが富士山です。
特に高い建造物もなく写真もなかった時代には神格的存在で、
しかも地続きなので(空にはしごをかけたりしなくても)
自分の足でたどり着くことができる場所でもあります。
日本人の魂の故郷といっても過言ではないでしょう。

富嶽三十六景を紹介したこの絵本をみて、北斎が生きていた
当時に思いを馳せてしまいました。北斎画の解説本の中でも、
絵探し遊び風な解説を加えたことで、子どもにも親しみ易い
構成になっています。描かれた場所と富士山との位置関係を
示した巻末の地図も参考になりました。

小さかったり、大きかったり、雪をまとったり、
赤かったり、青かったり、シルエットだけだったり。
様々な表情の富士山を捉え、効果的に画面に収めてみせた
北斎は、今でいう人気インスタグラマー的存在だったので
しょう。当時も多くのフォロワーがいたのでしょうね。

ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
今日は元旦晴れ。2020年もよろしくお願い申し上げます。
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