ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう:高畠 那生:中川 ひろたか:文溪堂
2020/02/29 Sat 07:23
超ネガティブ空想魔
何かと理由をつけて家を出ないウォッシュバーンさん。
ドアに挟まれるかもとか、石につまずくかも、なんて
ささいな心配から始まり、それはありえないでしょ的な
レベルのものまで、次々に理由をあげまくります。
最初はなんとも軟弱な男だなと思いましたが、8番目
あたりの理由から、彼の空想力の逞しさに感心し、次は
どんな理由を引っ張り出すのかと期待してしまいました。
そしたら・・・空想が現実に?
いや、ただのおちゃらけ話につきあわされただけ?
コント風の展開と洒落た絵がマッチし、まるで海外の
作品のようなユーモアにニヤリとなる絵本です。
次節柄、家から出ない14番めの理由も頭をよぎる。
そう、新型ウィルスへ感染するかもしれないから。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
高畠さんの絵が心地よいです。同系色の微妙な陰影と
補色の組み合わせに、撫でやかな筆運びが効いてる。
おふとんさん:コンドウ アキ:小学館
2020/02/23 Sun 06:55
捨て布団を飼う?
まるで捨て犬ですね。しかも勝手に後をついてきちゃうし。
親から家においておけないと叱られ、こっそり子ども部屋に
かくまってしまうという、分かりやすい展開も。
キャラクター物としては布団の擬人化ならぬ、擬動物化と
言えるかもしれない、白いモモンガのようにも見えるし。
そもそも連れて帰る子どもが擬人化されたリス(?)なので、
二重の擬態的構造というおもしろい世界観になっている。
子犬だったら布団の中に入ってくるけど、逆に中へ
入れてくれるのは、おふとんさんならではです。
包容力のある癒やしキャラなのだな。肌寒いとき、
疲れて休みたいとき、そしていい夢をみたいときに
おすすめの絵本です。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
先週から特定保険指導を受けて3つの行動計画を実施中なのだ。
1夕食後の間食はしない。
2夕食時のご飯、パン、麺類の量を減らす。
3野菜(食物繊維)を多くとる。
果たして3ヶ月後の結果は?
くいしんぼうのあおむしくん:槇 ひろし/前川 欣三:福音館書店
2020/02/22 Sat 07:28
胃袋は無限大
始まりはほのぼのとした、小さなあおむし君と男の子の出会いから。
友情物語かと思いきや、あおむし君のわがまな食欲にムカっとしたり、
環境問題への貢献にひと安心したら、一転、世界の滅亡に怖くなったりも。
時節柄、コロナウイルスの拡散とイメージが被ったので、
ブラックな結末が心をよぎりましたが、最後は無事収束しました。
終始一貫しているのは、ひたすら食べまくって大きくなるあおむし君。
読後に心に残ったのは、無限性についてでした。だってこれは始まりに
もどって繰り返される物語でもあるから。宇宙のようにひたすら
果てしなく斬新な絵本。こども向けとあなどってはいけない。
と思う一方で、これは子どもの好奇心を満たす話とも受け止めてます。
ときに無垢で、ときに残酷でもあり、とどまるところを知らず、
何でも吸収していくところが共通していますから。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
熊本へもコロナウイルスがやってきた。といっても
県で区分けする意味はないんですけどね。国境と違って
都道府県は自由に行き来できますから。
おさかなかんこう あさくさかな:加藤 休ミ: BL出版
2020/02/16 Sun 07:55
活きのいい魚たちの粋なツアー
日本の観光スポットとして大人気の浅草ですが、海外からだけ
でなく、海中からもツアー御一行様がお見えになるとは驚きました。
たい、いか、かに、ふぐ、さんま、などなど総勢18尾が、
雷門や浅草寺などを観光しまくる楽しい絵本です。
なんてことを書くと、コミカルで漫画チックな世界を思い浮かべる
方も多いでしょうが、絵はクレヨン画の名手:加藤さんなので
ひと味もふた味も違います。魚たちの描写がとにかくリアル!
擬人化なし。そのまんまの容貌で参拝したりジェットコースターに
乗ったり入浴したりとシュールに周遊していくのだ。そんな彼らの
豪快な生命感は、街の人々を人形のようにみせてしまう程です。
魚たちの新鮮な目を通した粋な観光ガイド。おもてなし絵本として
海外のお客様にもお勧めしたいです。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
先日は丸善(丸の内)で開催されていた加藤休ミさんの原画展へ。
幾層も塗り重ねニスで仕上げられたクレヨン・クレパス画からは
平面的な印刷にはない、ヌメコッテリ感も伝わってきました。
オニガシマラソン:トロル;教育画劇
2020/02/15 Sat 07:05
面白スピリットも完走
マラソンシーズン真っ只中に、タイムリーな絵本です。
しかも選手達は、世界各国の妖怪スターたち。一体どうなるんだ?
もう表紙を見た瞬間に熱い興奮がスタートしてしまいましたよ。
ところでマラソン観戦について思うのですが、テレビ中継はトップや
注目選手しか映さない。沿道では一通り走り抜けるのを見れるけど、
その場所の状況しかわからない。参加選手それぞれに想いや
駆け引きなどドラマがあるはずなんですけどね。
でも、でも、でも(あえて3回強調)この作品は完全中継されてます。
トップはもちろん、全選手のバトル状況があますことなく描かれてます。
しかもオニ丁寧な実況付き。注目ポイントも見逃すことなく
存分に楽しめますよ。妖怪達がそれぞれの得意技を発揮しまくって、
いくつもの難所を走り抜けた結果を見届けよ!
マラソンと言えば、最近はナイキの厚底シューズが注目されて、
ネオンカラーの足元についつい目が行ってしまいますが、
オニガシマラソンでは、みんな素足で勝負・・・・ん?
ページ前後の変化を見比べたり、絵探し遊びもできたり、
意外な展開もあったり、読み終えた後も興奮が止まりません。
早くも今年度の絵本ベスト10入り決定!
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
昨日はピンポイントギャラリーギャラリーの「日本百景」展へ。
各地から届いた絵葉書イラストを堪能。日本のように細長い
会場で北から南、さらに時空を跨いだ日本景色まで堪能しました。
ちなみに私も熊本より参加させていただきました。
A TRAVERS:TOM HAUGOMAT:EDITIONS THIERRY MAGNIER
2020/02/09 Sun 07:39
人生を1人の男の視点を通して描く
一人の男の人生を丸ごとグラフィカルな絵でつづった伝記絵本。
文章はなく、見開きには年月と場所のみが記載され、ページをめくる
ごとに一年が経過していくのですが、ユニークなのは画面構成。
各見開きの左側に男の行動が、右側に男の視点で見ているものが
描かれているのだ。客観と主観を行ったり来たりしながら、
その時、その時の彼の関心事項と共に、ひとつの人生を追体験して
いるような気持ちになりました。男の行動の根幹となっているのは、
宇宙への憧れだ。そこから得たものや失ったものが枝葉となり、
人生という樹木が形作られている。
アメリカ人の彼の体験にはスペースシャトルの事故や9.11テロも
登場し、実在の人物なのかと思いきや、2020年よりも先の場面まで
描かれているので、これは現実味をもたせた架空の世界なのでしょう。
一人の人間にとっては重大な出来事も、淡々と流れる時間の中では、
何気ない日常と同質に存在している。そんな感慨を抱きました。
目鼻口を廃した顔の高度な抽象化が、普遍的な共感性に
つながってますね。本書のフォーマットで歴史上の人物の伝記を
描いた絵本も見てみたくなりました。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
誰が面白いだろう? ピカソとか織田信長とかヒトラーとか・・・
すてきって なんだろう? :アントネッラ・カペッティ/メリッサ・カストリヨン:きじとら出版
2020/02/08 Sat 06:48
言葉の意味をのんびり探る
その意味は、辞書を引いたり、ネットで検索すれば見つかる
かも知れない。でもその前に、ちょっと考えてみる。
例えば・・・素敵なひととき、素敵な洋服、素敵なセリフ・・・
でも、その度に絵本に出てきたカラスの声が聞こえてくる。
「それは素敵ではなく、たのしい、きれいな、かっこいい、だろ」と。
そして、いもむし君と同じく悩んでしまうのだった。
素敵の中には、色々なものが含まれているように思います。
最大公約数的な褒め言葉なのかもしれません。
その意味で言うと、ラストで動物たちの目に写ったものは
なるほどと思いました。いもむし君の素朴な疑問+カラスの
つっこみを通して、たくさんの素敵なものに出会える絵本です。
絵本の原題は「Che bello!」。翻訳者のみつけた答えも
すてきですね。
と、その時、「やべぇ」って声が聞こえてきた。
いやそれは、やべぇじゃなくて“かわいい”だろ。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
来週末はピンポイントギャラリーの「日本百景」展へ行く予定。
どんな、すてきに出会えるか楽しみです。
ちなみに私も絵を出展させていただいてます。
ジャンブリーズ :エドワード リア/エドワード ゴーリー /柴田 元幸 (訳) :河出書房新社
2020/02/02 Sun 06:54
形式美の共演
リメリックという形式の詩で構成されたリアの文章と、ゴーリーの絵の
協奏が知的な味わいを醸し出している絵本です。
作中で、んっ? 乗員のひとりが何も持っていないぞ、
文章と絵が不釣り合いでは。と疑問を抱いたシーンがあったのですが、
実はゴーリーなりのアドリブ的配慮だったとの解説があって、
面白かった。船出する乗員が10名という数もそこから来たのか。
どのページの絵も人物の大きさが同じに揃えてあるせいで、
絵文字のように見えてくる。ゴーリーなりの絵作りの文法が
存在しているかのようだ。リメリックは言葉と言葉の関係に
意外性もあり絵的な要素も含まれている。両者の生きた年代は
100年以上の隔たりがありながら、まるで入念な打ち合わせを
したかのような共演が見事ですよ。
ーーーーーー【Review for Review】ーーーーーー
先週、熊本の橙書店に行ったら、偶然にも柴田さんの
朗読会の30分前という絶妙なタイミングに出くわす。
これは何かの導きに違いないと、もちろん参加、
未訳の作品や絵本の朗読もあり知的な時間を堪能しました。
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